一日本人から南モンゴル人への手紙
2009年6月5日
yapon hun
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南モンゴル人の戦い
多くの南モンゴル人は、漢人による政治的・経済的支配下にあることに不満を持っているが、同時に現在の情況が南モンゴル人にとって絶望的であることも認識している。このようなわけで、自分が積極的に南モンゴル人の主権を回復するための行動を起こすのではなく、個人的な幸福の追求のために行動する南モンゴル人がほとんどである。
しかし、後者のような南モンゴル人の態度は、南モンゴル人が置かれている状況を悪化させるだけで、改善することはない。南モンゴル人の南モンゴルに対する無関心の帰結は、漢人による南モンゴルの同化と完全併合だからである。南モンゴル人が自分達の故郷の空と草原と言語と文化を愛しているのであれば、それが失われることは南モンゴル人にとって悪夢でしかないはずである。
したがって、南モンゴル人は、二つの道のいずれかを選ばなければならない。ひとつは南モンゴルの土地と生活様式の中に生きることに幸福を見出し、それを守るための行動を起こす道である。もうひとつは物質的な豊かさの中に幸福を見出し、南モンゴルの土地と生活様式を諦め、自分達の言語と文化を放棄して、金銭的・物質的に満足しようとする道である。
前者の道は険しく、払わなければならない犠牲も多いため、強固な意志と覚悟がなければ行くことはできない。これに対して、なだらかな後者の道を行くことは容易である。あえて前者の道を行くことを選択しない人々は、おのずと後者の道を行くことになる。
ここでは、困難な前者の道を行くためには何をすればよいのかということについての私の考えを述べる。したがって、安易な後者の道を行く決意を固めている人は、ここから先を読む必要がない。
南モンゴルの歴史
中華人民共和国の一部としての内モンゴル自治区が成立してから今に至るまで、南モンゴルの歴史の真相を統一的、整合的に理解しようとする試みはなされてこなかった。文化大革命時における内人党事件、1981年の学生蜂起、ハダ氏の逮捕、その他諸々の事件について、多くの南モンゴル人は知らされてこなかったし、知っていたとしても、その多くが憶測と風説に基づく不正確な情報であった。中国共産党による苛烈な弾圧により、真実を語る資料や証言が散逸してしまったためである。
しかし、これらの事件は、南モンゴル独立運動史という一本の線として認識されるべきものである。なぜなら、これらの事件における共通の要素として、内モンゴル自治区への漢人の流入に抵抗し、南モンゴル人の土地、言語、文化を防衛しようとする南モンゴル人の意思があるからである。
したがって、南モンゴル独立運動の側から光をあてた内モンゴル自治区史を編纂し、自分達の歴史、言語、文化を失おうとしている多くの南モンゴル人と、南モンゴル問題についての関心が薄い北モンゴル人に対して、広くこれを示すことが急務である。このまま南モンゴル独立運動史を闇の中に葬り去ってしまうことは、モンゴルの歴史的な領土を捨て去ることと同義だからである。
また、それゆえに南モンゴル人は、自分達の歴史を憶測で語らないように細心の注意を払うべきである。そして、歴史の真実を研究しようとする真摯な態度が求められる。憶測で語れば、自分達の歴史を混沌の闇に突き落とすことに手を貸すことになり、それは最終的に支配者である漢人に利益をもたらすということを認識するべきである。
南モンゴル人の組織
個人の力をもって社会を変革することはできない。他者と協力することなしに、社会に大きな影響を及ぼすことは不可能である。これは人類が地上に現れてから今に至るまでの普遍の真理である。そこで、南モンゴルのために何か行動を起こそうと志す人は、まずは何らかの組織に所属して行動することで、その力を発揮する機会を得ることができる。もちろん自分で組織を作ってもよいが、このためには多大なエネルギーを必要とするため、既存の組織に所属し、その中で自分の目的を実現しようとするほうが合理的である。
現在、日本に存在している南モンゴル人の主要な組織は、内モンゴル人民党、モンゴル自由連盟党、モンゴル民族文化基金の三者である。いずれの組織も、その目的に賛同して加入を希望すれば構成員になることが可能である。インターネット上にメールアドレスが記載されているので連絡をとることも容易である。あるいは、その組織が主催するイベントに参加して、そこで直接、組織の構成員と話をして加入を申請してもよい。
内モンゴル人民党は、日本、欧州、モンゴル国などに有力な組織を持つ、最も歴史の長い南モンゴル独立運動の組織である。日本人協力者も存在するが、その人数は少なく、モンゴル人主体の組織である。モンゴル自由連盟党は、後発の南モンゴル独立運動の組織であり、日本の保守勢力や反中勢力との協力関係が強い。これらの組織に所属した場合、中華人民共和国に帰国すると民族分裂を扇動した罪に該当し、処罰される可能性が高いため、表立って活動している構成員は自分の故郷に帰国することができない。しかし、党員であることを公表せず、秘密裏に加盟して活動することも可能である。
モンゴル民族文化基金は、南モンゴルの独立は主張せず、内モンゴル自治区が中華人民共和国の一部であることを是認した上で、モンゴルの文化を広め、貧しいモンゴル族の子弟のための奨学金を給付して就学機会を確保するための活動をしている。
これらの組織は、いずれも公益を目的とする性質を持っており、それゆえ本来的に民主的な組織である。すなわち、独裁者を頂点とする封建的な組織とは異なり、議論と合意を通じて組織を変革することが可能であるし、本人が希望し、またその能力があれば、組織の指導的役割を担うこともできる。組織の外部から、組織の目的ではなく活動内容について批判する声は多いが、組織に加入した上で意見を表明し、内部からの改革を試みるほうが建設的である。また、当然のこととして組織からの脱退も自由である。
南モンゴルの将来を憂い、不満を吐露する人々は多いが、有効性のある実際的な行動を起こさなければ無意味である。もし、数千人いる在日南モンゴル人の大多数が、これらのいずれかの組織に加入すれば、南モンゴル人の組織は強化され、南モンゴル人の国際社会における発言力は強まる。また、北モンゴル人も含めたモンゴル民族全体として、国際的なモンゴル人社会を健全に発展させて行けば、社会の相互扶助機能により個々のモンゴル人の生活水準を上げることも可能になる。グローバル化された現代社会は、もはやゲルと五家畜さえあれば自由奔放に生きてゆくことができた草原ではない。遊牧民族であるモンゴル人といえども集団生活から逃れることはできないし、それを拒否すれば社会の中で孤立してしまうだけである。モンゴル人同士の横のつながりだけではなく、これを組織化することによって、はじめてモンゴル人のモンゴル人らしい生き方が可能になるのではないだろうか。
南モンゴルの問題に無関心でいられないのであれば、他の誰かの行動に期待するのではなく、自分自身が内モンゴル人民党なり、モンゴル自由連盟党なり、モンゴル民族文化基金に積極的に参加することをお勧めする。
南モンゴル人の国語
最後に、若いモンゴル人達には論理的に思考する力を身につけて欲しいと願う。ここに書かれる文は、日本語であれ、中国語であれ、甚だしい場合にはモンゴル語でさえ、何を言いたいのか分からない意味不明なものが多い。失礼を承知の上で敢えて言うが、それらは犬が互いに吼え合っているのと全く変わらない。これは、その人たちの責任ではない。国語を失ってしまった南モンゴル人全体の不幸である。
南モンゴル人は、まず自らの国語をしっかりと確立する必要がある。現在およそ30歳以上のモンゴル人と30歳未満のモンゴル人では、話し方や書き方のレベルに天と地の差がある。南モンゴルにおけるモンゴル語教育の衰退とともに、南モンゴル人の思考力が明らかに低下して来ている。モンゴル語も中国語も中途半端なのに、どうして正しい日本語や英語を身につけることができるだろうか。若いモンゴル人達は、そのことを自覚した上で、論理的に思考する力を身につけるために、まず国語をよく学ぶべきである。
モンゴル人にとっての国語とは、モンゴル国のモンゴル語である。厭わずにキリル文字を学び、モンゴル国で出版されている多くの優れた文学作品や学術論文を読むことで、はじめて堅実な国語力を身につけることができる。そのような努力を怠りながら、ただ自分はモンゴル人、チンギス・ハーンの後裔であると言っても悲しいだけではないか。