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少数民族本位の開発に
[アジアと欧米の識者による様々な立場からの意見です]
ボルジギン・ブレンサイン
早稲田大学モンゴル研究所客員研究員
(中国・内モンゴル自治区)
中国では西部開発の一環として、農地を林業地や草地に転換することで砂漠化を防止する対策が進められている。最近では、生態回復のため「生態移民」と呼ばれる移民計画が内モンゴル自治区や寧夏回族自治区で始まり、内陸部全体に広がっている。「生態移民」は、砂漠化が進んだ地域の遊牧民を町や都市の集合住宅に移住させて砂漠化を阻止し、自然環境を守ることを目的とする。
内陸部における家畜の飼育頭数が天然の牧草地で養える限界をはるかに超えたことは事実だ。しかし、乾燥した土壌や降雨量が少ない気候条件を無視して、森林伐採による強引な農業開発を推進してきた歴史への反省こそが、西部開発でかつての間違いを繰り返さないための大前提なのだ。
内陸部に暮らす少数民族の多くは牧畜を生業とし、数千年にわたって営んできたが、草原は砂漠化しなかった。彼らが遊牧民として移動しながら牧畜し、ぜい弱な土壌を傷めずに持続可能な生活スタイルを取ってきたからだった。
しかし、遊牧の非効率性を指摘する遊牧後進論によって、開発が繰り返され牧畜業に頼る人々が行き場を失った。
中国ではこの半世紀で少数民族の生活はかつてないほど豊かになった。特に少数民族の言語による教育システムが確立したことは大きな成果だ。しかし、「生態移民」によってコミュニティーから切り離され、漢民族が圧倒的に多い都市部へ移住させられた結果、その教育システムが崩壊する危機にひんしている。
コミュニティーの崩壊を代償に経済発展を目指す方法は取るべきではない。少数民族が多様多彩な独自の文化を維持できることこそが、多民族国家・中国をより魅力ある大国にする唯一の道であろう。日本政府の途上国援助(ODA)も少数民族の教育システムの維持や人材育成に投入して欲しい。
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