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ハダ夫人シン(新娜、シンナ)が胡錦涛国家主席と温家宝首相に公開書簡を送付
2008年3月26日
国家主席 胡錦涛様
首相 温家宝様
拝啓
夫ハダは、1995年12月、懲役15年の刑を宣告されて現在まで13年間服役し、現在は内モンゴル自治区赤峰市第四刑務所に収監されています。夫の罪状は「国家分裂およびスパイ活動への従事」でした。夫の健康状態は最近かなり悪い様子で、昨冬、刑務所のトイレの中で昏睡状態に陥ったことがありました。刑務所では痛みを和らげ、健康を回復するための医療サービスを受けていません。夫は服役前とは全く別人のようになっており、会う度に胸が張り裂けそうです。また、去る3月18日には、赤峰刑務所副所長張志新ほか職員が夫の私宛の手紙を不当に没収し、法的権利を公然と奪う事件が起こりました。「監獄法」に違反する厚顔無知で非合法な行為に対して責任者を処罰するようお願いいたします。これまで何年間も書簡を送り続けていますが何ら返信がないので、またこの手紙を書いております。
私は、モンゴル人その他大勢の人びとと共に、夫に対する刑罰の受け入れを拒否しています。国際社会が本件に注意を払い、夫の刑罰について異議を唱えている理由は、それが民族抑圧の典型的なケースであるからです。
チベットの最近の事件に私は関心を寄せ、これについて意見を述べさせていただきます。伝えられるところでは、デモ参加者がわずかな人数だったにもかかわらず、なぜ中国政府がチベット、フフノール(青海)、甘粛および四川各省のチベット・コミュニティに多数の戦車や装甲車、軍隊を動員したのでしょうか。外国人ジャーナリストを追放し、多くのインターネット・サイトを閉鎖する必要がなぜあったのでしょうか。彼らに公正な報道をさせれば、もっと説得力があったのではないのでしょうか。私は、ダライ・ラマがどのように「暴動を首謀した」のかについての確かな証拠を温首相が私たちに提示してくれるのを待っています。中国は法治国家への道を歩き始めているようです。国家の指導者が何ら証拠がないにもかかわらず誰でも彼でも非難するのは適切とは言えないでしょう。国家の指導者が文化大革命時のようにダライ・ラマを中傷するのは特に賢明ではありません。ダライ・ラマはノーベル平和賞を受賞しており、国際的に大きな影響力があり、宗教的靱帯によってチベット人とモンゴル人に大変崇拝されている人物です。上記のような状況によって事態はより悪い方向に進む可能性があります。次に、中央政府はこの出来事の根本的な原因を再考すべきです。中国の報道が伝えているように中央政府が過去10年間にチベット人に対して多くの施策を実施してきているならば、チベット人が中国政府に感謝しないで、憤激したり破壊したりするのでしょうか。なぜこれほど容易くダライ・ラマの「扇動」に乗るのでしょうか。中央政府は、この事件の原因と結果だけでなく、内的・外的要因を理性的に分析し、民族問題など様々な未解決問題を歴史の流れにしたがって十分に検討し、誤りを正して妥当な解決策を提案すべきです。間違った政策を続けて強調することは、摩擦を激しくするだけでしょう。第三に、私は多くの漢民族の人びとがチベットをよく理解し同情して、チベット人との過去の関係を再考していることに気が付きました。先例のないこのプラスの変化は、改革・開放の30年が中国人のイデオロギー的な観念を変えてきたことを私たちに告げています。インターネットの恩恵により、人びとの視野は益々広がり、民主主義に対する理解は大いに深まっています。
私は、チベットの今回の混乱は、中国政府が民族問題に対して過去に犯した誤りの発露だと考えています。実際、チベット、ウイグル、内モンゴルの問題は本質がまさに同じです。全ての少数民族の不満や不服従の態度は、少数民族が法的権利を剥奪され、それに対しておこなった正当な要求を鎮圧されてきた結果です。その一方で、民族問題は現実には民主主義と人権の問題であり、法的権利の返還を要求する漢民族と同じく少数民族の権利を含んでいます。これが今回の混乱を多くの漢民族が支持している理由のひとつです。
冷戦後、社会主義イデオロギーは次第に弱まり、民族問題が世界の不安定要素のひとつになりました。中国の民族問題については、「少数民族地区には広大な土地と豊かな天然資源がある一方、漢民族の人口は膨大で大きな負担になっている」と特徴付けられます。民族間の矛盾を適切に解決し、少数民族が平等に扱われないなら、両者の摩擦は激しくなるにちがいありません。例えば、モンゴル人だけでなく文革時に草原で暮らしていた漢民族の知識人も、草原環境の保護を訴えて尽力し、以下のように指摘しています。「誰が草原に過重な負担をかけたのか。それは、牧民ではなく他の地域から移り住んだ人たちです」、「草原の法律上の所有者は誰ですか」、「騎馬民族はすでに馬に跨っていない。なぜなら草原がすでに馬を養えなくなっているから」、「草原が悪化するのにしたがって、牧民の生活はますます悪化した」、「医療サービスがない、売るための家畜がいない、子どもを学校にやるお金がない」、「当局が草原の最後の一部を緑に保つためにスローガンを掲げているのはなぜか。それは緑の草原が残っていないから。全てが砂漠に変わってしまった」。その一方で、意思決定者と営利企業は、草原の開墾と開発のスピードを上げています。現在、石炭は内モンゴルの主要産業になり、年間純益は中国で第二位になりました。2005年には、内モンゴル自治区の指導者が「シリンゴル草原(地球上で最も保存状態が良い4つの草原のひとつ)は第五期五か年計画でオルドス市のように工業地帯として開発されるべきである」と主張しました。世界有数の石炭企業である神華集団公司は「2000億元をシリンゴルに投資し、内モンゴルの先進的な工業地帯のひとつに育て上げる」と公言しています。地元のモンゴル人の抵抗によって、強大な営利企業の草原開発が止められることは決してないでしょう。極く短期間で、家畜が自由に移動していた美しい草原の風景は歴史の一部になってしまいました。地元モンゴル人のライフ・スタイルは永久に変えられ、伝統的な文化や習慣が完全に失われてしまいました。中国政府が内モンゴルで実施している「科学的な開発主義」の結果なのです。
もしお二人が中国をより広い視点でご覧になれば、少数民族地域の経済開発が少数民族の経済的利益を犠牲にして実施されていることにお気づきになるはずです。ほとんどの開発プロジェクトが漢民族地域から幹部と労働者を雇い、独自のしくみを作って実施します。そして、少数民族地域を原料供給地と見なし、少数民族に原料を供給する役割だけを担わせ、少数民族を経済活動において無視しています。少数民族が自分たちの地下資源に対する権利を否定されるなら、少数民族地域と全民族の共和国の経済開発は決して成し得ず、政治的な発展はいっそう難しくなるでしょう。この問題について、中国の少数民族は同じように不満を感じ、また、各民族が直面している問題も同様なのです。
夫のハダは1990年代にこれらの民族問題について意見を表明したにすぎません。その結果、夫は「反革命分子」とレッテルを貼られ、「民族分離主義者」として厳しく処罰されました。夫はいまだ厳しい条件下で服役中です。最近のチベットの混乱は、夫が不当に罰せられ不当に扱われている内モンゴルに存在する民族問題と同じく、チベットの民族問題がより悪化している結果です。
近年、中国共産党は「より人道的で持続可能な発展」、「中国式の調和のとれた社会主義社会の建設」というスローガンをうたっています。ごく最近では「権力行使の透明性」が強調されています。私は、オリンピックや政府の上のような積極的な姿勢によって勇気づけられ、お二人に以下のようにアピールする気になりました。
1.憲法によって保証されている言論の自由、出版の自由、集会の自由および表現の自由を少数民族を含む市民へ返してください。
2.少数民族問題に十分に取り組み、中国の法令と国際条約にしたがって少数民族に自治と自決権を返すよう政府に促してください。
3.民族問題により投獄された夫ハダを含む全ての政治囚を釈放して下さい。また、政治思想によって個人を不正に扱ったり迫害したりするのを止めて下さい。
私は、民主主義と法の下で民族問題を解決することが最も賢明な方法であると信じています。また、中国が民主的な法治国家への道を歩み、全ての民族がこの歴史的なプロセスを希求していっしょに努力すべきだとかたく信じています。中国のリーダーであるお二人が、次の段階で長く期待されてきた「胡錦涛・温家宝新時代」を人びとにもたらすと期待しています。
敬具
内モンゴル市民 シン
(英訳からの重訳)
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