Indo-Pacific Defense |
2022年2月7日 |
内モンゴル自治区のチベット で勢いを増す中国共産党の 残虐な民族同化運動
FORUM スタッフ
2021 年 3 月上旬、世界の民主主義国家が中国共産党の新疆ウイグル自治区 におけるムスリム系ウイグル人の 虐殺に反対する声を一斉に高める中、 世界中の亡命チベット人が再 びひとつとなり、長く中国の 圧迫下に置かれている故郷の窮状を思い祈 りを捧げた。
第 62 回民族暴動記念日は 1950 年にチベットに侵攻した中国の占領軍に対してチベット人が起こした 1959 年反乱の記念日であり、亡命者 コミュニティは新たに祖国の独立を呼びかけた。数週間の反乱の中で数万人のチベット人が 中国人民解放軍(PLA)によって殺害されたと 推定されており、さらに多くのチベット人が国外に亡命したが、精神的指導者であるダライ・ラマ氏が隣国インドで安全な避難所に到達したのを 確認するまで彼らは国内に留まり続けた。
反乱は鎮圧されたが、チベットの精神は崩壊していない。インドに拠点を置くインド亡命政府、 当時の中央チベット政権のロブサン・サンガイ (Lobsang Sangay)大統領は 2021 年 3 月 10 日の 声明で「過去 60 年間の中国の統治下で 100 万人以上 のチベット人が命を落とした。今日私たちは 1 つとなり、共に失われた命に哀悼の意を表している」 と述べるとともに、「しかし、この哀悼はチベット におけるチベット人の屈強さを讃えるものでもある。 チベット人は命の危機に直面しながらも、私たちの 言語、宗教、土地、アイデンティティを守り、維持 するために抗議活動を続けている」と述べた。
記念行事の数日前、チベットの首都ラサから 北東に 2,500 キロメートル離れたところで、 習近平中国共産党中央委員会総書記は 6 ヵ月前に 内モンゴル自治区の学校で始まった中国の別の 少数民族による暴動の鎮圧に注力していた。前例のない事態が続く中、何千人もの学生と保護者が街頭でデモを行い、モンゴル語を普通話中国語に置き換えるという中国共産党の指令を無視して学校 をボイコットした。ニューヨークにある南モンゴル 人権情報センターのトゴチョグ・エンゲバト (Togochog Enghebatu)所長は『ロサンゼルス・タイムズ(Los Angeles Times)』紙に対し 「モンゴル人は、国家的アイデンティティの最後の砦であるモンゴル語が、この新政策によって一掃 されようとしていると感じている。「そのため モンゴル人は崖っぷちに立たされているような気分 になっている。この闘いに負ければ、すべてを失 うことになる。民族自体が滅びる」と述べている。
『フランス通信社(Agence France-Presse)』 が報じたところによると、2021 年 3 月までに 習近平国家主席は政府の党首に対し、現地の政府職員 は「中国特有の民族問題を解決するための正しい 道を歩まなければならない」と警告し、国籍や文化 に関する「間違った考え」を是正しなければならないと 述べたという。習近平氏の指令や「中国の特有」という言葉が意味するところは中国の名ばかり 自治区の先住民にとって明確であり、中国共産党 は広大なステップと無限の地平線を持つ内モンゴル の学校から、空を貫くような山を有するチベット高原の修道院に至るまで、強制的な同化と 文化的根絶の運動を行っている。
新疆ウイグル自治区における中国共産党の残虐 な弾圧の影で厳しさを増すチベットと内モンゴル自治区の取り締まりは、文化を一掃し、言語を 消滅させ、宗教的伝統を根絶しようとする試みと広く見なされており、これは簡単にいうと何千年 にもわたる国家遺産と歴史を抹消しようとする行為だ。 2021 年 3 月に『ブルームバーグ・オピニオン (Bloomberg Opinion)』紙に掲載された記事 によると、中国共産党は「新疆ウイグル自治区から チベットに至るまで過去 20 年間にわたって繰 り返されてきた動乱の鎮圧に決意を示している。中国の指導者の間で長い間重視されてきた民族統一 の達成は、今や中国の最優先事項だ」。
度重なる抑圧
2019 年後半に中国の武漢で初めて検出された 新型コロナウイルスの感染拡大は、2021 年に 入っても中国共産党の同化政策の推進に継続 して口実を提供し続けている。チベットの党職員は 2021年 2 月のロサル(旧正月)の間、旅行や公共の集会を禁止した。ラジオ・フリー・アジア (RFA)が報じたところによると、新型コロナウイルスの懸念があるとして仏教寺院やその他の 宗教施設の閉鎖が命じられ、違反者に対する処罰が約束されたという。
住民や分析家は揃って中国共産党の供述の真意 を否定し、修道院はチベット文化の維持に中心的な役割を果たすと述べた。ニューデリーにある ジャワハルラール・ネルー大学国際学大学院で 博士課程に在籍するアパ・ラモ(Apa Lhamo)氏は「多くのチベット人にとって、宗教とチベット 民族のアイデンティティは切っても切り離せない 関係にある。これは中国共産党政権下においても 同様だ」と2021年3月付けの『ザ・ディプロマット (The Diplomat)』誌に記している。
多くの人にとって、中国共産党の強制同化の背後 にある真の推進力は、ヒマラヤから流れ出る溶岩のように明確である。その立地、地形、天然資源によりチベットは非常に高い戦略的価値を 持つだけでなく、ブータン、インド、ミャンマー (ビルマ)、ネパールや新疆ウイグル自治区と国境 を接している。世界最高峰の山々を有するチベット には、10 億人以上の人々の生活を支え、中国共産党 の豊富なメガダムにも水を供給するメコン川 をはじめとする東・南・東南アジアの数々の 巨大河川の源泉も存在している。チベット高原 には電気自動車、風力発電機、ミサイル、戦闘機などの製造に不可欠な金、ウラン、レアアース などの貴金属の鉱床があり、非営利団体のエネルギー 研究所、Institute for Energy Research によると 中国は毎年世界のレアアースの 60% 以上を生産しており、これは多くの民主主義国にとって 国家安全保障上の懸念事項となっており、中国軍 とチベット軍は何世紀にもわたってこの土地と 中央アジアの貿易ルートを支配するために争いを繰り広げてきた。亡命コミュニティや人権団体 によると、中国共産党が70年前にチベットを併合 して以来、チベットの推定人口 320 万人の 90%以上を占めるチベット族は監視、恣意的な拘束、拷問などの一連の抑圧を受け続けている。
2021 年 1 月、チベット独立を支持するスローガン を唱え、チラシを配布した容疑で 5 ヵ月間収監 されていた 19 歳の仏教僧侶が収監中に死亡した。 その翌月には、21 年間服役中のチベット人が脳損傷 でラサの病院に移送された直後に死亡している。 ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、51 歳の クンチョク・ジンパ(Kunchok Jinpa)は、 2013 年に自宅での中国国旗の掲揚を義務付けた 中国共産党の命令に平和的に抗議したとして拘束された数百人のチベット人の中のひとりだ。 これにより拘束された者の多くは現在も行方不明 となっている。国際的な非政府組織の中国長官である ソフィー・リチャードソン(Sophie Richardson)氏は声明で「クンチョク・ジンパ氏の死は不当に投獄されたチベット人が虐待によって死亡 したもうひとつの凄惨な事件であり、不当勾留、 拷問、虐待、および拘束されている人々の死亡 について中国当局は責任を負うべきだ」と述べた。
国家の分裂
チベット人権民主センターによると、経済統合 による同化を加速するためのインフラ投資でさえ、 チベット民族を犠牲にして漢民族系中国人労働者 や企業に有利に働いている。チベットでは少数民族 であるが、漢民族系中国人は中国人口 14 億人の 92% を占める。2021 年 2 月、インドに拠点を置くチベット人権民主センターは「中国の開発政策は地方チベット人の都市化と土地権利の剥奪に成功した。これにより人口減少を通じて原始的な荒野を作り出し、町と都市の経済の中心を中国化し、投資と利益が確実に中国に還元されるようにしている」と報告した。
『ザ・エコノミスト(The Economist)』誌によると、 中国共産党の同化キャンペーンの多くは継続して 宗教を中心に据えている。同化キャンペーンには、 現在 86 歳であり、中国軍から逃れてから 60 年以上経 った現在もインドで亡命生活を続けている第 14 代 ダライ・ラマ氏を中傷することも含まれている。習近平氏が 2012 年に政権を掌握して以来、中国共産党 は仏教をチベット文化の中心から切り離そうとする 動きを強めており、中国共産党職員は賄賂や脅迫 を利用して、チベット人に自宅ではダライ・ラマ 氏の肖像画の代わりに、他の共産主義指導者とともに 習近平氏と毛沢東の肖像画を掲げるよう強要した。 複数の報道によると、2020 年 12 月、中国共産党 が監視する SNS プラットフォーム・ウィーチャット (WeChat)にダライ・ラマ氏からのロサルの挨拶文 を投稿したチベット人の羊飼いが「国家分裂」 の疑いで懲役1年を言い渡されている。
2021 年 2 月、『ザ・エコノミスト』誌は「新疆 ウイグル自治区の中国化は公式には宗教問題に 限定されているものの、少数民族の住民が中国に帰属していると感じさせるために、はるかに広範囲にわたる作戦が展開されている」と指摘し、 「学校では『愛国教育』が強調されており、 チベット語はほとんどのクラスで中国語に 変更された。監視も強化されており、 情報提供者のネットワークがスマートフォン を用いて政府に情報を送信している」と報じた。
チベット人にとって、この問題は故郷を奪 われることに等しい。チベット人権民主センター のツェリング・ツォモ(Tsering Tsomo)センター 長はラジオ・フリー・アジア(RFA)に対し、 「通常、私たちは人権を個人の権利と自由の問題とみなしているが、チベットにとってはチベット民族自体の生存問題であり、問題への取り組みは 一民族全体の人権を守ることに等しい」と述べた。
数千キロにわたって悲痛な叫びが響き渡っている。
拡大する嵐
習近平氏が内モンゴル自治区の民族問題を是正 するよう党職員に指示してから 1 週間後、北京市内 を猛烈な砂嵐が襲い、太陽の光は遮られ、通勤者は呼吸困難に陥り、学校は屋外活動の中止を余儀なくされた。2,200 万人の市民を襲ったのは、 モンゴル高原のゴビ砂漠で発生した過去 10 年間で最大級の嵐だ。これは、習近平氏の思惑に反 して内モンゴルの騒動が簡単に鎮静化されること はないという天からのお告げかもしれない。
中国の国土面積の約 13% を占める約 120 万平方 キロメートルの内モンゴル自治区は、独立した 場合面積で世界 25 位の国となる。約 2,500 万人の人々が居住する内モンゴルは中国北部を横断し、 独立国のモンゴルとロシアと 2,400 キロメートル にわたって国境を接している。チベットと同様、地域の大部分が乾燥しており、豊富な天然資源に恵まれている。BBC ニュースによると、ゴビ 砂漠の端にある包頭市は鉱業の中心地であり、 世界のレアアース量の約 70% を占めている。
第二次世界大戦の終了により 10 年以上にわたる 日本の占領から解放された後、1947 年に中国共産党 が内モンゴル自治区を行政区とし、この地域は 中国の支配下に入った。これ以降、内モンゴル 自治区は漢族が圧倒的多数を占めるようになり、約 420 万人のモンゴル族は人口の2割にも満たない。 しかしモンゴル人のアイデンティティは力強く、遊牧民、優れた騎馬民族、そして13世紀に歴史上最大 の帝国のひとつを築いた勇猛な統治者チンギス・ハンを含む豊かな歴史を持っている。
内モンゴル自治区では現在でもモンゴル文字 が使用されている。26 文字からなるモンゴル文字はウイグル文字から改編された固有の縦書きの アルファベットで、その系統はチンギス・ハンの治世にまで遡る。このため、2020 年 8 月に中国共産党 が学校での母国語の使用を縮小するよう命じたときに 騒動が発生したのは不思議なことではない。 8 歳の息子が大規模な教室ボイコットに参加した羊飼いのアングバ(Angba)氏は「私たちモンゴル 人は皆中国の方針に反対している」とCNN に語 った。子供を抱えるアングバ氏は意見を述べたことに 対する報復を恐れて偽名を使用している。同氏 はさらに「モンゴル語が消滅すると、モンゴル人の民族性も消滅する」と述べている。
中国当局は、国語を学ぶことはすべての中国市民 の義務であると主張している。これは国家に忠誠を誓うための教訓だ。9 月上旬に州営報道機関の 『内モンゴル日報(Inner Mongolia Daily)』紙に掲載された記事には「これは国と党に対する愛を具現化するものである」と記されている。 抗議活動を先導する者には賞金がかけられた。
オブザーバーは、チベットの場合と同様、 モンゴル語の禁止は中国共産党の迫害パターンの最新版であり、儲かるが環境破壊を伴う鉱業活動を進めるための党主導の教化と牧草地の強制的な 明け渡しを伴うものだと述べている。CNN ニュース が報じたところによると、2011 年に何千人もの 人々が土地侵入を阻止しようとして石炭運搬車 によって殺されたひとりの羊飼いの死に抗議した。 党は武装警察とソーシャルメディア上の取り締 まりで対応している。2020 年 9 月に『ザ・ ディプロマット』誌に掲載された記事の中には 「中国当局は過去 70 年間、少数民族の権利をゆっくりと 切り捨ててきた。これは民族・国家的均質化をめぐる 大規模な試みのようだ」と記されている。
しかし親やその他の人々は、文化的情熱は薄 れないことを宣言している。2 人の子供の母親である キキジェ(Qiqige)氏は CNN に対し、「モンゴル人 である限り、我々は最後まで抵抗するだろう」と語った。
団結とともに立ち上がる
世界で 300 万人以上の命を奪い、世界の注目と 資源を 2 年近く消費してきたコロナウイルスに後押しされながら、中国共産党は民族抑圧を急いできた。内モンゴル自治区、チベット自治区、新疆ウイグル 自治区の人々にとって、中国共産党が彼らの故郷を 「自治区」と呼ぶことは、党の指示に従って行動する自由のみが与えているだけであることがより明確になっているように思われる。
国際コミュニティーは彼ら少数民族の窮状を継続して強調しており、民主的な政府、国際機関、 人権団体は中国に対する内政不干渉を求める中国共産党 の要求を拒否するとともに、圧政に苦しむ人々により 多くの手を差し伸べて民族・文化的な伝統を保護する必要があると訴えている。ニューヨークに拠点 を置くヒューマン・ライツ・ウォッチは 2021 年の年次報告書で「2020 年、武漢で初めて報告された致命的なコロナウイルスの感染拡大を受けてから中国政府の独裁主義は本格化し、中国共産党への政治的忠誠を主張する中国政府の弾圧は全国 でより深刻なものとなった」と指摘した。
中国共産党がチベットでの旧正月行事を禁止した後、米国国務省は事実上のロサル祝賀会を 開催し、チベットの遺産を保存するために同盟国 や提携国と協力するという米国の取り組みを再確認 した。2021 年 2 月、国務省高官のリサ・ピーターソン (Lisa Peterson)氏は「中国政府がチベット人や他の少数派グループの尊厳と人権を執拗に攻撃
することは容認しない」と述べ、その 1 週間後 の国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の国際母語 デーには、日本、モンゴル、スウェーデンなどの抗議者が中国共産党による内モンゴル人の言語の伝統に対する攻撃を非難した。
一方で国連の経済的、社会的及び文化的権利委員会 は、内モンゴル自治区、チベット、新疆ウイグル自治区の軍隊や警察を含む公共行政における 民族意見の反映、インフラストラクチャープロジェクト によるチベット人放牧者の土地収用と「チベット 高原の環境悪化」、チベット人、ウイグル人、その他の少数民族の虐待と強制労働などの懸念に対処するよう中国政府に指示した。同委員会の 2021 年 3 月の報告書には「国連加盟国が神聖な文化や宗教的遺跡の大規模な破壊、宗教儀式の実践 の禁止、学校でのウイグル語やチベット語の使用の禁止などを通じてウイグル人やチベット人の 文化、宗教、言語を根絶しようとしたという報告について」中国の対応を求めると記されている。
亡命コミュニティの指導者たちは、このような 統一された対応だけが中国共産党の強制同化 のさらなる拡大を食い止めることができると述 べており、『ザ・タイムズ・オブ・インディア (The Times of India)』紙によると、当時亡命中 だった元チベット大統領ロブサン(Lobsang) 氏は2021年4月、ニューデリーに拠点を置く 民主主義、多元主義、人権センター(Centre for Democracy, Pluralism and Human Rights) が主催するイベントで「チベットと新疆ウイグル自治区における少数民族の人権侵害に関する 報告に関して、単一あるいは少数の国々 だけではなく世界中のコミュニティが連帯して 中国に対して立ち向かう必要がある。世界が必要としているのは中国の独裁的な政策ではなく、 多様性を尊重する開発を可能にする民主的な 政策だ」と述べた。o