【ウランバートル=比嘉清太】米政府系のラジオ自由アジア(RFA)は、中国の警察当局者が今月3日、モンゴルに滞在していた中国・内モンゴル自治区出身の著名作家ラムジャブ・ボルジギン氏を拘束し、中国に連れ戻したと伝えた。米国に拠点を置く人権団体「南モンゴル人権情報センター」の情報としている。
事実なら、「海外警察」と呼ばれる出先機関を巡って、国際社会で批判が強まる中国警察の活動への懸念がさらに強まりそうだ。
同センターは、ボルジギン氏が首都ウランバートルで、車両2台に分乗した中国の警察当局者4人に拘束されたとしている。人権団体関係者の間では、陸路で中国に連れ戻され、現在は自治区のシリンホトにいるとの見方が出ている。
ウランバートルの非政府組織(NGO)関係者は本紙に、ボルジギン氏が今年に入って中国から出国し、ウランバートルに滞在していたと明かした。この関係者が4月上旬に電話で話した際、「中国には戻りたくない。自由な国で本を書きたい」と新たな書籍の執筆意欲を語っていたという。
ボルジギン氏は中国で少数民族と位置づけられるモンゴル族で、2019年、中国の大衆政治運動「文化大革命」(1966~76年)に関する著作を問題視され、中国の裁判所で有罪判決を受けた。著作は文革時の自治区の被害に触れる内容とされる。中国政府は、モンゴル語など独自の文化の保護を訴えるモンゴル族への締め付けを強めている。
今回、ボルジギン氏を連行したとされる当局者の具体的な所属などは不明だ。人権団体「セーフガード・ディフェンダーズ」(本部スペイン)は、昨年公表した報告書で、ウランバートルにも中国の海外警察の拠点があると指摘していた。
自治区出身の楊海英・静岡大教授は「自治区から越境してきた中国当局者が、モンゴルにある『海外警察』の協力のもとで、ボルジギン氏を連行した可能性がある」との見方を示した。